2026年7月21日、フランスの議会が「15歳未満の子どものSNS利用を禁止する」という法案を可決しました。施行されればヨーロッパでは初めての規制ということもあり、日本のニュースでも取り上げられ、話題になっています。「そんなことが本当にできるの?」「日本でも同じような話になるのかな」と気になった方も多いのではないでしょうか。この記事では、フランスで何が決まったのか、なぜそういう流れになったのかを、できるだけかみくだいて整理していきます。そのうえで、この規制をめぐってどんな論点があるのかも見ていきましょう。
フランスで何が決まったのか
まず、決まった内容をシンプルにまとめると「15歳未満の子どもは、SNSを使えなくなる」というものです。ここで言うSNSとは、TikTokやInstagram、Xといった、利用者同士が投稿や写真・動画を通じてつながるインターネット上のサービスのことを指します。今回の規制では、こうしたサービスが対象になる見込みです。
この法案は、マクロン大統領が力を入れてきた政策でもあります。未成年のSNS利用に一定の線引きをするという考え方自体は以前から議論されてきましたが、それが実際に法案の可決という形まで進んだのが今回です。EU(ヨーロッパ連合)の加盟国の中でも、ここまで踏み込んだ規制は初めてとされています。
なお、すべてのネット上のサービスが対象になるわけではありません。オンライン百科事典(Wikipediaのようなもの)、教育・科学分野のディレクトリ、オープンソースの開発・共有プラットフォームといった種類のサービスは、規制の対象から除外されます。除外されるのは「サービスの種類」であって「使う目的」ではない、という点は少し注意が必要です。つまり「授業で使うならTikTokやInstagramもOK」という話ではありません。
いつから、どう変わるのか
まず押さえておきたいのは、この法律はまだ確定していないということです。議会での可決後、野党の議員たちが「この法律は憲法に反するのではないか」として憲法評議会(Conseil constitutionnel)に提訴しました。憲法評議会の判断は1か月以内に出る見込みで、そこを通過してはじめて正式に公布・施行される流れになります。
そのうえで、現時点で報じられている予定は次のとおりです。
- 2026年9月1日以降(見込み):15歳未満は、SNSの新規アカウントを作成できなくなります。フランスでは夏休みが明けて新しい学年が始まるタイミングにあたります。
- 2027年1月1日以降(見込み):すでに持っている既存のアカウントも、利用できなくなります。
つまり、いきなり全部止まるのではなく、まず「新しく始めることができなくなる」段階があり、そのあと「今使っているものも使えなくなる」段階が来る、という流れです。すでにSNSを日常的に使っている子どもにとっては、数か月の猶予がある形になります。ただし繰り返しになりますが、これらはいずれも憲法評議会の判断を経たうえでの話であり、内容が変わる可能性も残っています。
誰が、どうやって守らせるのか
ここが今回の規制のポイントのひとつです。年齢のチェックを求められるのは、利用者本人や保護者ではなく、SNSを運営するプラットフォーム企業の側です。つまり「子どもが勝手に使わないように親が見張る」のではなく、「サービス提供者が利用者の年齢を確認する義務を負う」という設計になっています。
そしてもうひとつ特徴的なのが、保護者や子どもが違反した場合の罰則規定はない、という点です。家庭を取り締まる法律ではなく、あくまでプラットフォーム側に責任を求める作りになっているわけです。「うっかりルールを破った家庭が罰せられる」という性質のものではない、と理解しておくと誤解が少なくなります。
ただし、ここには議論もあります。最終的にまとまった法案では、年齢確認の具体的な手段の規定や、フランスの規制当局による制裁の権限が削られたと複数のメディアが報じています。そのため「ルールは決まったが、破られたときにフランス単独でどう罰するのか」という部分が弱いのではないか、という指摘が出ています。実際の制裁は、EU全体のデジタルサービス法(DSA)という別の枠組みに頼る構造になる、という見方です。
なぜ規制することになったのか
背景には、フランス社会が抱えている問題があります。近年、学校で生徒同士の暴力や、教師に対する暴力事件が相次ぎ、社会問題として大きく取り上げられてきました。その中で、SNSが集団いじめの温床になっているという指摘も出ています。
また、SNS上では暴力や自殺、違法薬物の使用に関する有害な情報に、子どもが接してしまう恐れがあることも問題視されてきました。大人であれば「これは危ない情報だ」と距離を取れる内容でも、判断の経験が少ない子どもにとっては影響が大きくなりやすい、という懸念です。
こうした状況を受けて、「子どもがSNSに触れる年齢そのものに線を引く」という強い手段が選ばれた、というのが今回の流れです。
賛成の声と、懸念の声
この規制については、さまざまな受け止め方があります。ここでは、どちらが正しいという結論は出さずに、両方の見方を並べてみます。
規制に前向きな立場からは、こんな意見が挙がっています。年齢確認の責任をプラットフォーム側に負わせることで、家庭ごとの対応任せにせず社会全体でルールを揃えられる。子どもが有害な情報や集団いじめにさらされるリスクを、入り口の段階で減らせる。学校でのトラブルを抑えることにもつながるのではないか、といった見方です。
一方で、懸念を示す立場からは、次のような点が指摘されています。まず実効性の問題です。年齢を偽って登録する、家族のアカウントを借りる、規制対象外のサービスに移動する、といった形で抜け道が生まれるのではないか、という声があります。
年齢確認の方法自体も論点です。利用者の年齢を厳密に確認しようとすれば、身分証明書の提示のような、より多くの個人情報をサービス側に預ける仕組みが必要になる可能性があります。子どもを守るための仕組みが、結果として大人も含めた全利用者のプライバシーに影響しうる、というのがここでの難しさです。
さらに、表現の自由や情報にアクセスする権利とのバランスも語られます。SNSは有害な情報が流れる場であると同時に、同じ悩みを持つ人とつながったり、必要な情報にたどり着いたりする場でもあります。一律に閉ざすことで、そうした受け皿まで失われないか、という懸念です。
日本ではどうだろうか
ここまで読んで、「日本ではどうなんだろう」と考えた方もいると思います。SNSをめぐるトラブルや、子どものネット利用との付き合い方は、日本でもよく話題になるテーマです。フランスと社会の事情は違いますが、「子どもとSNSの距離をどう取るか」という問いそのものは、どの国にも共通しています。
法律のような強い形でルールを決めるのか、家庭や学校での話し合いを重ねていくのか、サービス側の仕組みで工夫するのか。アプローチはいくつも考えられますし、それぞれに良さと難しさがあります。フランスの取り組みは、その選択肢のひとつが実際に動き出した事例として、参考になる部分がありそうです。
まとめ
今回のポイントを整理します。フランス議会は2026年7月21日、15歳未満のSNS利用を禁止する法案を可決しました。ただし現在は野党の提訴を受けて憲法評議会が審査中で、まだ確定していません。この関門を越えれば、2026年9月1日以降は新規アカウントが作れなくなり、2027年1月1日以降は既存アカウントも使えなくなる見込みです。年齢確認の責任はプラットフォーム企業側にあり、保護者や子どもへの罰則はありません。背景には、学校での暴力事件の増加や、SNS上の有害な情報・集団いじめへの懸念があります。
この規制が実際にどう機能するのかは、まず憲法評議会の判断を待ち、そのうえで施行後の運用を見ていく必要があります。抜け道の問題や年齢確認の方法、制裁の実効性など、これから議論が続く部分も多いでしょう。「子どもをどう守るか」と「自由やプライバシーをどう守るか」は、どちらも大切で、簡単に答えが出るものではありません。だからこそ、遠い国のニュースとして流してしまうのではなく、自分の身の回りに置き換えて考えてみる価値のある話題だと思います。